枯萩や閻魔笑へる円応寺
建長寺で時間を使ってしまい、あじさい寺まで戻る時間はなさそうだ。もう2時を回っている。鎌倉街道をはさんだ、建長寺のはす向かいに円応寺という、閻魔大王で有名な寺があるらしい。面白そうなので覗いてみることにする。
トンネルのちょっと手前、ちょうど崖になっているため、お稲荷さんのような赤い幟がなければ危うく見逃すところに、狭く急な石段があり、そこを上れば三門がある。
境内は狭く、門を入った正面に本堂があり、すぐ左手に、入場料などを払う受付所、右手に小さく素朴な鐘楼、たしか右奥に庫裡のようなものがあったと思う。庭は、一面に枯れた萩、どこか田舎の寂れた山寺を思わせる。観光客は3、4人いるだけだ。
本堂は、がらんとした四角い部屋に、コの字型に高さ一メートルほどの棚があり、そこに、閻魔様を含む十王と言われる偉い官吏さんがいらっしゃる。入口中央に閻魔大王がいて、その左右にそれぞれ恐い顔をした偉い人が並んでいるという構図。
この閻魔大王は、運慶作と言われているらしいが、どうも信じがたい。顔は確かに恐ろしく、迫力があるのだが、体がまるでできていない。特に座っている下半身、腰のあたりに、全く力がない。おそらく運慶作ではない。
十王の説明が一人一人に付いていて、読んでいるとおもしろい。本当は写真を撮りたかったのだが、正面に大きく「撮影禁止」と書いてある。
円応寺の見どころは、本当にこれだけ。10分もあれば見終わってしまう。
▲円応寺入り口の急な階段。右の写真は、建長寺そっくりだが、小さく素朴な鐘楼。
ここの唯一の見どころである閻魔大王は、どうも俳句にならない。庭の枯れた萩と鐘楼の組み合わせがちょっと趣があるので、そこを狙って見た。
枯萩に鐘埋もれたる円応寺
雰囲気的には、庭全体が枯萩に覆われているような感じがした。しかし、これはものすごく大げさ。本当にそうだったらおもしろいのだが。
枯萩や鐘楼の風円応寺
まだ3時前だというのに、この寺は山の影の中にあるということもあって、風が冷たい。なかなか手なれた感じで、枯れた萩に、秋の風を添えて雰囲気を出したところなど、見事なものだが、どこかつまらない。この手の俳句は、ちょっと上手な人なら、すぐに作ってしまうだろう。要するにおもしろくないのだ。点数を付けるとすれば、合格すれすれの65点というところか。
何を俳句にできるか。というよりも、ここで何に感動したのか。人に、この寺の何を伝えたいのか、もう一度考えてみる。
この寺は、閻魔大王で有名だ。とすれば、やはり閻魔大王を詠うべきではないのか。閻魔大王はじめ地獄の十王それぞれ、まあまあおもしろかった。そこが俳句にならないか?
枯萩や閻魔に会ひし円応寺
「閻魔に会ひし」は、どこかニュアンスがあるのだが、どうもこのままでは報告に終わっている。
枯萩や閻魔笑へる円応寺
この閻魔大王は、運慶が笑いながら作ったため、笑っているように見え、「笑い閻魔」とも呼ばれているらしい。確かに、そんな感じもした。顔だけが真っ赤に彩色されていて、他はほとんど色が剥げているため、その顔が、他の王に比べ非常に目立ち、表情は、恐ろしいというよりも、滑稽な感じがする。笑っているといえば言えないこともない。
と言いながら、この俳句は、もう一度考え直す必要がありそうだ。