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他人のこと



秋風や告知の日から他人のこと

10月18日、土曜日。本来ならば放射線治療は休みなのだが、病院の都合で治療を行うことになり、久々、カメラを持って、休日の都心を歩いてみた。
治療が終わって、病院から日比谷公園を抜け、皇居まで来ると、皇居のお濠の水面に白い風船が浮いている。周りでデモをやっているわけでもなく、風船を持った人が歩いているわけでもない。特に変わった景色でもなく、ただ、どこかから風に乗って流されてきた風船が、水に浮いているというだけのこと。なんとなくその風船を見ていると、ピンクのリボンが書いてある。普段であればそんなものには興味もわかないのだが、そのリボンに見覚えがあって、それなのに、それが何か思い出さなかったので、写真を撮っておいた。
皇居東御苑を散策した後、濠端を歩いていて、ピンクリボンの書いてある白い風船を持った家族連れと出会った。そしてはっと気がついた。ピンクリボンは、乳がんから女性を守るピンクリボン運動のシンボルマークなのだ。

がんの告知を受けてから、自分では意識していないのだが、がんという言葉や文字に敏感になっているようで、新聞を見ていても、電車に乗っていても、また本屋に行っても、以前よりもずっと「がん」という文字が目につくようになった。「がん」という言葉が、これほど世の中に溢れているとは思わなかったし、気にしたこともなかったのだ。
また、他人のことが気になり、電車の中などで同年輩の男性が近くにいると、ついその人の首のまわりに視線が行ったりする。同病の人を見つけて相哀れみたいという気持ちなのかも知れない。
それまでまったく気にも留めていなかったことや、見ていなかった(見えていなかった)ことが、最近、見えているようだ。お濠に浮いた白い風船が気になったのも、ピンクリボンががんと関係があると、意識のどこかで感じていたからかもしれない。

ということで、今日の俳句。

風船のピンクリボンや秋の風

「風船のピンクリボン」とは何だろう。ピンクリボンがピンクリボン運動のことだとわかっている人でも、これでは何のことかわからない。「ピンクリボン運動という乳がん予防運動のマークがついた風船」ということを説明しようとしているからわからなくなる。

秋風やピンクリボンが街を飛ぶ

「赤い羽根」といえば共同募金の運動であることは誰でも知っているように、「ピンクリボン」といえば乳がん予防運動であることを知っている、という前提で作った。
「ピンクリボンが街を飛ぶ」を、単純に解釈すれば、ピンクのリボンが秋風に乗って、街の中を飛んで行ったということになるが、ピンクリボン運動という言葉を知っていれば、「ピンクリボン」は単なるピンクのリボンを表しているものではなく、思想を表わす象徴であることに気付くはずだ。そういうことであれば、この句は理解できないこともない。ただ、だからといっていい句かどうかは別問題。この句には、詩情がないというか、言葉が詩になっていないため、余韻、余情といったものが感じられない。
そもそも「ピンクリボン」という言葉が一般的ではなく、言葉の概念がないのに、6文字も使用してしまうことに問題がありそうだ。「ピンクリボン」とは何かを説明することなどできない。
言葉には、単なるものを表したり説明する言葉、思想を表わす言葉、そして詩心を表わす言葉がある。例えばこの「ピンクリボン」という言葉。ある人にはものを説明している言葉でもあり、ある人には思想を表わしている言葉でもあるが、詩心を表わしていると感じる人がいるかどうかは疑わしい。
言葉に詩があるかどうかは、言葉の問題ではなく、言葉を紡ぎだす側の問題だ。「ピンクリボン」という言葉を詩にするには、その前後にいくつかの言葉を補足する必要がありそうだ。そのための字数が俳句にはないのだ。

秋風や告知の日から他人(ひと)のこと

ピンクリボン=がんという連想から、自分のがんについて触れてみたいと思った。
「告知の日」と言えば、おそらくほとんどの人はがんの告知だと思う。受胎告知などと思う人は少ないだろう。
「他人のこと」は、他人のことが気になるようになった、ということ。
あえてこの句を自解すれば、秋風の吹いているどこかものさびしい昼下がり、皇居の周りを散策していると、ピンクリボン運動の白い風船がひとつ、お濠に浮いているのが目に入った(ここまでは写真を見ればわかる。状況はすべて写真に託している)。このがん予防運動のマークを見て思ったのだが、私もがんを告知されてから、それまではまったく無関心だった他人のことが気になるようになったなあ、といったところか。

うまい解説が付くと、それほどでもないものでも、よくなったりする。特に芸術というものはそういうものだ。とは思わないが……。




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